竹谷出版学術ジャーナル『教育への扉』

(2022年4月より、旧「竹谷出版電子ジャーナル『教育への扉』」から名称変更いたしました。)

ISSN 2436-4959


子ども理解を中心に据えた授業構築を目指して

~ 個別最適な学びと協働的な学びの一体的実現のために ~

(寄稿)

高橋 純一

東京未来大学 講師

  

1975年 秋田県秋田市生まれ。秋田県立秋田高等学校を卒業後,北海道教育大学函館校に入学。卒業後北海道の公立中学校を中心に,約20年間教員を務める。中学校教員在職中に,北海道教育大学修士課程を修了。現在,東京未来大学こども心理学部において主に,社会科教育関連科目を中心に担当している。

1 はじめに

 

 近年の我が国の教育動向から,子ども一人ひとりを理解して授業を構成し,実践することが重視されている。

 我が国においては,令和3年4月に「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」1) が出され,個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図ることが提起されている。このことから,学校現場において子ども一人ひとりを理解し,その子どもにとって最適な学びを実現できる教師の資質・能力がいっそう求められる。近年,教科教育学の立場からも臼井(2022)の言説として,「授業をする力量だけでなく,授業を通して子どもの力を伸ばす力量」2) の獲得が述べられている。そのため,各教科等の授業において,子どもを理解しその能力を最大限に伸ばすことを視野に入れながら,授業実践することが望まれている。筆者の所属する東京未来大学のこども心理学科こども保育・教育専攻においても,カリキュラム・ポリシーの一つに,「子ども理解に根ざした心理学・保育学・教育学・福祉学等に関する体系的・実践的な知識・技能を学ぶ」を掲げ,教育課程の根幹に「子ども理解」を据えている。本稿は,我が国の教育動向等を見据えて,子ども理解をキーワードにしながら展開していきたい。

 

2 子ども理解を中心に据えた全国屈指の研究校

 

 我が国において,長年にわたって子ども理解を柱にして,実践研究している学校の一つに富山市立堀川小学校がある。堀川小学校は,戦後の社会科を創造した重松鷹泰の指導を仰ぎ,1955年より現在まで一貫して子ども理解を中核とした問題解決学習を実践している。また,創校150年を迎えた伝統校であり,教育目標として「自主創造-くらしをみつめ,追究する子ども-」を掲げ,“子どもが主体的にくらしをつくる”ことを目指している。特に,当校の子どもが主体的に語り合い聴き合う授業は魅力的であり,毎年行われる教育研究実践発表会には,全国から多数の教育関係者が参加している。堀川小学校の子どもを主体とした研究の成果について,これまで著書として14冊刊行されている。1959年に発刊された第1の著書『授業の研究』のはしがきには,堀川小学校における子ども理解の考え方が示されている。

 

 「ひとりひとりの子どもの考えには,それぞれに根拠がある。どんなつまらない発言の中にも,その子どもの過去の学習経験や生活経験が織り込まれているのであって,どの子もどの子も,それぞれに,その子なりに独自な考え方の背景を背負って,個性的に問題に対決しているのである。学習指導は,まず,このような,子どもの考え方の特質を認め,その言い分をすなおにききいれることからはじめなければならない」3)

 

 堀川小学校は,この考え方に基づいて子どもを主体とした授業研究を展開してきたのである。次章では,この子ども理解に基づいてどのような授業が展開されているのかを取り上げる。

 

 

3 堀川小学校の社会科の授業実践

 

 筆者は現在,堀川小学校の政二亮介教諭の実践について研究している。その中でも本章では,政二教諭が堀川小学校に在籍して4年目に実践した小学校6学年追究単元『戦国の世を生きる-徳川家康-』を取り上げる。本単元の流れは,表1のとおりである。

 

表1 単元『戦国の世を生きる-徳川家康-』

 

 表1にある①は,新単元との出会いの段階である。堀川小学校では「提示の時間」と言い,子どもが学習に見通しをもち,追究を歩み出していく上で大事にしている段階である。提示の時間において家康の年表を見た児童Iが,徳川家康が名前を変えていくことに興味をもった。つまり,「徳川家康の年表見たときに,別の名前で生まれてきていることが気になりました。なぜなら,今は,名前をよくしようと名前を決めているけれど,昔はなぜ名前を変えるようなことをしたのか気になりました」4) という問題意識をもったのである。政二教諭にとって,Iのような家康の名前に問題意識をもつことは,単元構想にはなかったものの,家康の名前にこだわるIの背景を考え,I自身の名前の由来やその真意を親から聞き,自分の名前に込められた親の思いや願いを知ったこと(Iが昔自身の名前について嫌な気持ちをもち,そのことについて親に訴えたところ,親から名前に込められた願いを聞き,それ以降嫌がることはなくなった)と因果関係があるとその背景に迫っていったのである。

また政二教諭は,本単元におけるその後のIの追究について,以下のように振り返った。

 

 「Iさんが急に手を挙げてきて,『先生私ももしかしたら,(家康と同じで)卑怯なことしていることあるかな』って,いきなりボソって言うんです。『何かあったけ』って言ったら,『私テニスやっているんだけどさ,人に試合勝ちたいなって思ったら,はじっこの方ばかりにボール打つって。』それはすごく良いことなんじゃないかって僕なら思うんですけど,…それって,Iさんからしたら,自分ももしかしたら試合に勝ちたいっていう時に,卑怯な手を使ったりすることあるなっていう話を,自分事にしながら考えていくんですね。…この徳川家康を通していきながら,自分の立場や生き方というものを顕在化しているのではないかと思いました。」5)

 

 以上のように政二教諭は,Iが徳川家康の生き方を自分事として捉え,追究する姿に対する理解を深めていった。また,Iの学びが学級全体に及ぼした影響についても以下のように振り返った。

 

 「徳川家康が,戦国の世をどう生きてきたのかについて,他の子どもはその業績しか注目しなかったんですけど,Iの追究によって名前からも人の生き方の矛盾があることに全体が気付き,学習が深まる良い追究になった。」6)

 

 Iの追究が,学級における他の子どもの学びを深めるための契機となったのである。

 以上のことから,本授業実践を,Iが教材を通して生まれてくる課題を発見し,それを解決する過程としてのみ捉えることはできない。Iは,この教材を通して徳川家康の名前の変遷から,自分の価値観と矛盾したり,抵抗を感じたりして苛まれ,自身の問題として捉えるに至った。そしてIは,自分の問題として捉えたものと正面から向き合い,問題解決に向けて主体的に追究していった。

 このIの主体的な追究を可能にした根拠は何であろうか。筆者は,政二教諭が名前の価値や意味,家康の名前の変遷にこだわったことに着眼したIを見守り,その追究を最後まで信じて支えながらIを理解しようとしたその姿勢にあると考える。

 

4 子ども理解を中心に据えた授業実践

 

 前章でも述べた徳川家康の授業実践に着目して,もう少し述べていきたい。

本授業における徳川家康が江戸幕府を開くまでの業績に関わることは,教科の内容面に該当する。徳川家康という教材を通して,子どもはその時代背景や文化,政策等について理解し,学習を深めていく。言わば,教科の内容的な側面としての意味をもつ。しかしながら本授業実践は,この内容面を扱うだけにとどまらなかった。つまり教師は,教材を通して浮かび上がってくる子どもの様々な事実を捉えること,その子どもの事実と事実をつないで統合して,子どもの育ちや願いや価値観を捉えるようとする努力しようとすること,つまり子ども理解に迫るという内面的な側面をも大事にしていると言える。子どもの内面的な側面も位置付けながら授業が展開されることによって,子どもが主体的な追究を生み出すことにつながっているのである。

このことは,堀川小学校の追究の捉え方にも関係している。例えば,第5冊目の著書『個の成長』では,追究について以下のように述べられている。

 

「追究とは,求めてやまないすがたであり,真実にむかって全力をあげて究めようとすることである。わたくしたちの求めている教育は,そうした追究主体の育成である。追究はしたがって全人格的な行為であり,人生における永遠の旅は,すなわち追究のすがたである。わたくしたちは,可能性にみちた子どもたちが,教育という営みを通して,追究者として育つことを願わずにはいられないのである。」7)

 

 このことは,追究が単なる授業という限定された場における学習内容の獲得ということを意味してはいない。子どもが自らのくらしに重ねて,自分の問題として向き合い続けること,すなわち生き方に関わることとして捉えられ,教師がその子どもの追究を支援していることに要因がある。

 

 

5 自立した学習者を育成するために

 

 1章で述べたように,現在の我が国の教育動向を受けて,各学校現場において子どもを「自立した学習者」に育成することが期待されている。

 堀川小学校では,1978年に刊行された第6冊目の著書『自立性の開発』において,子どもが自立して学ぶための支援として4点について述べられている。1点目は学習意欲を育てること,2点目は学習方法を工夫していく力を育てること,3点目は自己評価の力を育てること,4点目は他への関わり方を高めることである8)。今後,個別最適な学びと協働的な学びを一体的に実現するうえで,各学校現場に示唆を与えるであろう。

 堀川小学校が約70年間にわたって,子ども中心の学校であり続けることができるのは,時代とともに変化していく教育の姿を敏感に受けとめ,創造的な学校経営に努めてきただけではない。どれだけ時代が変化しようとも学校経営の中核に子どもの内面を重視し理解することを貫いていることが根拠として挙げられる。第10冊目の著書『子どもの学びと自己形成』には,以下のようなもつべき教師の姿勢について述べられている。

 

 「教師は日頃から子どもに教えようとする教科の内容的な教材研究を十分に行い,子どもの幅広いニーズに応えるべく,内容に精通していることが必要である。それとともに大切なことは,教師が子ども一人一人を熟知し,子どものよき理解者としての姿勢を失ってはいけないことである。」9)

 

 筆者は今後とも,この不易と流行の両面を兼ね備え進化・発展し続けている堀川小学校の教師と子どもから学び,その研究の発展のために,微力ながら全力を尽くしていきたい。

 

 

註及び引用文献

1) 文部科学省(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm(最終アクセス

2024年2月25日)。

2) 臼井智美(2022)「教師教育における教科教育学(研究)の寄与の可能性」『日本教科教育学会誌』第44巻第4号,2022年,103頁。

3) 富山市立堀川小学校(1959)『授業の研究-子どもの思考を育てるために-』明治図書,3頁。

4) 富山市立堀川小学校(2016)『教育実践-個の学びと教育-第121号』富山市立堀川小学校教育実践研究会,15頁。

5) 2018年7月31日に,福島大学教職員研修講座(『子どもの追究を拓く授業』」)の講師を担当した。その講演会で語ったこと。

6) 2019年6月1日,堀川小学校において,筆者のインタビューによる。

7) 富山市立堀川小学校(1973)『個の成長-可能性の開発を求めて-』明治図書,10頁。

8) 富山市立堀川小学校(1978)『自立性の開発』明治図書,12-13頁。

9) 富山市立堀川小学校(2006)『子どもの学びと自己形成』明治図書,43頁。

 

 


インストラクショナルデザインを活用した授業設計

(寄稿)

藤本 光司

芦屋大学 経営教育学部(学部長) 教授

  

1963年兵庫県丹波篠山市生まれ。兵庫県公立中学校教諭,ロンドン日本人学校教諭,宝塚市教育委員会指導主事を経て2011年着任。現在,IR推進室長,大学院も兼任。日本教育情報学会理事。主な著書に,『新編 技術科教材論』(竹谷出版2021共著),『アクティブラーニングに導く 教学改善のすすめ』(ぎょうせい2020編著),他。

1 はじめに

 

 GIGAスクール構想によって,一人1台端末が整備されたことや学校現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むことで,教育のパラダイムシフトに期待が寄せられている。学習管理システム(LMS)の活用は,教務情報の管理,チャットでのコミュニケーション,自動採点機能,懇談日程の予約などがある。これらにより教育活動の幅も広がり,履歴情報から学習内容を点検して教育の質保証につなげている。本稿では,授業で勝負するための授業設計に有効なインストラクショナルデザイン(Instructional Design,以下,ID)ならびにオンライン授業の手法の一つである反転授業(Flipped Classroom)を紹介する。

 

2 教え方・学び方を逆転する反転授業について

 

 そもそも限られた時間の中で教員による知識伝達と学習者の主体的な学びを両立する授業は容易ではない。反転授業が注目されたのは,ICT教育の発達と教育のパラダイムシフトが関係している。

 バーグマン(J.Bergmann)とサムズ(A. Sams)1)が示した「教えることを目的とした教員主体ではなく,学ぶことを中心に捉えた学習者主体の授業を作りたい」という思いにより反転授業が生まれた。一般的に予習や復習は,授業の補助的な役割を担っている。反転授業の目的は,講義の時間を減らして学習者の理解を精一杯引き出すことに焦点をあてている。

 図1のように,「学校で学習して自宅で復習する」という流れを反転させて,「自宅で予習し,学校でさらに深く学習する」が反転授業である。一方,反反転授業は,たとえばテニス未経験者に,とりあえずプレーさせた後,基礎理論を教室で学び,学校外で動画視聴して復習させる手法である。

 反転授業は,まず,予習動画で動機づけと基礎・基本の学習を定着させる。次に,教室で課題に対する討議やグループワーク,あるいは発展問題で深い学びへと導く授業設計である。留意点は,単元目標の明確化,学習負担を考慮した動画分量(時間),確認問題のWeb配信などが効果的である。また,反転授業による予習は,生徒間の学力格差を無くすことや深い学びの情報収集に対応できる。一方,多くの授業で実施すれば生徒の学習時間が増えるので教科間調整も重要である。

 

図1 通常授業と反転授業の比較

3 魅力的な授業を提供するための授業設計

 

 学習者がもっと学びたいという意欲を喚起して達成感を実感させることができれば,魅力的な授業といえる。IDは,学びの効果・効率・魅力の向上をめざした教育手法の総称であるが,この研究の歴史は古く,1940年代に米国ではじまり教育工学の分野での研究が盛んである。心理学者のガニエ(R.M. Gagné)はID理論の生みの親であり,その屋台骨を9教授事象2)で示している(表1)。導入段階では,学習者の注意を引き,次に,何が身につくかの目標を知らせて,必要な前提条件(既有知識)を思い出させる。展開段階では,新しい事項を提示して記憶に組み込む作業と引き出す道筋をつける。最後にまとめとして,出来具合を確かめて,学んだことを忘れないようにする。この理論は,記憶の仕組の二重貯蔵モデルとも関連している。

 

表1 R.Mガニエの「9教授事象」

4 有名なIDの「ADDIE」と「ARCS」モデル

 

 インストラクション(Instruction)とは,教授,教育,訓令,指令,使用説明書など,教える行為全般を指す。次に,有名なIDモデルを紹介する。

 

(1)ADDIEモデルを活用した授業改善と評価

 デック(A.W. Dick)のADDIEモデル3)を図2に示す。このモデルは教育や教材の設計プロセスの手順を「分析-設計-開発-実践-評価」の流れでPDCAサイクルのように繰り返す。特徴は,その都度の評価結果を受けて,それぞれの段階で適宜修正が施される。授業で,自分が何をしているのか,どこに問題があるのか迷ったときに,そのプロセスを振り返って活動全体を見直すことができるモデルである。

 

図2 A.W.デックの「ADDIE」モデル

(2)ARCSモデルによる学習意欲の喚起と持続

 学習意欲は学びの原動力であるが,学びをデザインする,ケラー(J.M. Keller)のARCSモデル4)を図3に示す。このモデルの4つの側面は,さらに3つの下位分類で構成されており,下位分類を具体的な教授場面に置き換えることで自分の授業の理解が深まる。

 

①Attention「注意:おもしろそうだ」

A-1:知覚的喚起(興味を引くために何ができるか)

A-2:探求心喚起(どう探求的態度を引き出せるか)

A3:変化性(どうすれば学習者の注意を維持できるか)

 

②Relevance「関連性:やりがいがありそうだ」

R-1:目的志向性(ニーズを満たすことができるか)

R-2:動機との一致(学習スタイルや興味と関連づけるか)

R-3:親しみやすさ(どう経験と授業を結びつけるか)

 

③Confidence「自信:やればできそうだ」

C-1:学習要件(成功の期待を持つように支援できるか)

C-2:成功の機会(自らの能力に対する信念を高めるか)

C-3:個人的コントロール(成功結果を認識できるか)

 

④Satisfaction「満足感:やってよかった

S-1:自然な結果(どうすれば獲得した知識やスキルを活用する機会を提供できるか)

S-2:肯定的な結果(何が学習者の成功を強化するのか)

S-3:公平さ(どうすれば自らの成果を肯定的にとらえるよう支援できるか)

 

図3 J.M.ケラーの「ARCS」モデル

5 おわりに

 

 学ぶことは,アリストテレスの「人はすべて生まれながらにして,知ることを欲する」からも,報酬や罰を与える外発的動機づけよりも,知ること自体を楽しんで何かをやろうという知的好奇心や達成動機の内発的動機づけが学習活動を支えている。自律的に学習するように導くことは課題であるが,先が見え辛い時代を生き抜く子どもにとって重要なことである。

 

 

参考文献

1) ジョナサン・バーグマン,アーロン・サムズ著,山内裕平,他著,『反転授業』,オデッセイコミュニケーションズ,2014

2) 鈴木克明,美馬のゆり編著,『学習設計マニュアル』,北大路書房,2018

3) 稲垣忠,鈴木克明,編著,『教師のためのインストラクショナルデザイン 授業設計マニュアル』,北大路書房,2011  

4) J.M.ケラー著,鈴木克明,監訳,『学習意欲をデザインする』,北大路書房,2010

 

 


スクールカウンセラーと心理教育

~ チームの一員として心理教育を展開するために ~

(寄稿)

永浦 拡

北海道教育大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)准教授

  

北海道札幌市生まれ。兵庫教育大学大学院を修了後,兵庫県公立学校スクールカウンセラー,神戸医療福祉大学社会福祉学部講師,同准教授を経て2023年より現職。学校における臨床心理学,特にストレスマネジメントやインターネット依存等の予防プログラムの開発と実践が専門。博士(学校教育学),公認心理師,臨床心理士。

1 はじめに

 

 平成22年以来,12年ぶりに改訂された生徒指導提要(文部科学省,2022)では,生徒指導を2軸3類4層に構造化し,その中でも常態的・先行的(プロアクティブ)な生徒指導として,全ての児童生徒を対象とした課題未然防止教育を,専門家等の協力を得ながら実施することが重要であると示されている。このような課題未然防止教育のひとつとして,これまで医学や心理学の知見からは,心理教育プログラムの開発および実践研究がなされてきた。しかし,学校教育の現場における実施状況は,学校裁量や教育委員会からの推奨に留まっており,さらなる展開のためには,実施にかかわるスクールカウンセラー(以下,SC)の資質向上が喫緊の課題であると報告されている(日本臨床心理士会,2022)。

 筆者はこれまで,2011年よりスクールカウンセラーとして,公立の小中学校にて活動する中で,学校における心理教育プログラムの計画および実践に複数携わってきた。本稿では,SCと教員および学校との連携による心理教育プログラム実践(以下,プログラム)について紹介しながら,今後プロアクティブな生徒指導の効果的な展開のために,SCに求められる資質・力量について述べる。

 

2 ニーズの把握とアセスメント

 

 まず,プログラムの実施にあたっては,対象となる学級・学校が抱えている課題や,教員がねらいとして身につけさせたい資質・能力がどのようなものであるかについて,把握することが重要である。中には,管理職やSC担当から「SCの先生にお任せします」,「先生のやりやすいもので構いません」といった依頼を受けることもある。これは,多忙な学校現場で,教職員が心理教育に関する理論や実践例を学習する時間や余裕がなかったり,過去の実践経験が少なく,専門的なことは専門家に正しく教育してもらいたいという思いが影響していることが多い。そこでSCは,個別面接以外の場面で児童生徒の様子をアセスメントしておくこと,実施対象の学級や学年の教師からニーズの聞き取りをしたうえで,適切なプログラムの提案を行うことが望ましい。また,近年はどのようなプログラムを行うかの指標となる尺度なども開発されており(寺戸ら,2019・2020など),客観的な視点からのニーズ把握と提案も可能である。

 

3 プログラムのアレンジ

 

 今日,プログラムの授業案や実践例がまとめられた書籍が多く発刊されてきている。しかし,学級や学校の風土によっては,既存のプログラムの通りの実施が難しいことも少なくない。そこで筆者は,それらに応じたプログラムのアレンジを,教員とSCの協働で行ってきた。本来,心理教育は内容としては医学や心理学をベースに構成されているが,実際には学校における「授業」のひとつとして展開される。授業の開発および実践の理論については,教育のエキスパートである教員から学ぶことはとても多い。 

 永浦(2020)では,プログラムの授業案の中で,教員が気になる点の例として,グループワークの人数,児童生徒の書く作業や考える作業のスピードの違いへの配慮,本時の目標などの児童生徒の心に残りやすいキーワードを挙げる,ワークシートで知識面の復習を行うといったものが挙げられている。このような教育方法に関するトレーニングは,心理職を養成する課程で学ぶことはまれである。SCは,プログラムの本来のねらいが損なわれることがないよう留意しながら,教員の視点から見たプログラムの改善点について尋ね,協働で内容を検討することで,プログラムがより効果的に行われるようにつとめなくてはならない。また,実施後の効果検討,さらには授業内容を日々の教育活動の中でどのように活用していくか(般化させていくか)についても,分析と提案ができなくてはならない。さらに今後は,心理教育そのものだけではなく,授業を効果的に展開させる教育方法に関する理論や技術についても,養成課程のカリキュラムないしは自己研鑽のための研修会などで学ぶ機会が設けられることが期待される。

 ニーズの把握・アセスメントからアレンジ,今後の検討までの流れを図1に示す。特に学校規模が大きい場合や,相談業務が多い場合などは,SCが勤務時間内にプログラム実践を行うことが難しい場合も少なくない。そこで,プログラム実践は教員が主導で行い,SCはバックアップに回るなどといった,タイムマネジメントの観点から実践方法を変えるなど,学校の実情に応じた柔軟な姿勢が求められる。

 

図1 心理教育プログラム実践の流れ(例)(永浦,2020)

4 科学者としての視点からの提案

 

 わが国の教職員は研究に努めなければならないことが教育基本法によって規定されており(「教育基本法」(教員)第9条),さまざまな校内研究や課題研究が行われているが,教職員の学校における研究とSC活動との関連については,ほとんど報告が見当たらない。筆者は,SCとして勤務している公立中学校において,教職員の依頼を受けて,自治体との協働によるストレス研究およびプログラム実践を行った(永浦・冨永,2017)。その中でSCは,教職員の問題意識や取り扱いたいテーマをもとに,関連する研究等を紹介や,その分野に関する教職員研修を実施した。また,プログラムの効果の検討においては,研究デザインの提案や得られたデータの分析を担当し,研究を担当する教職員チームにフィードバックを行った(図2)。研究に携わった教職員へのインタビュー結果からは,客観的な指標をもとに,研究の成果をより詳細に理解することができたこと,また臨床心理学の理論に触れることで,自身の生徒指導のあり方や,子どもを理解する際の視野が広がったことなどの肯定的な変化が示されていた。

 

図2 SCと教員との協働による研究実践(永浦ら,2017)

 

 今日の本邦における心理職(特に臨床心理士)の養成においては,1949年にアメリカにて提言された「科学者-実践家モデル」(scientist-practitioner model)に基づいた教育が多く採用され,主に大学院教育において,観察,記述,推論,仮説検証,理論構築の過程を学び,教育・研究・実践という3つを実践できるためのトレーニングが展開されてきた(松見,2016)。臨床心理学の専門性は,実践や教育のみならず,研究もその重要な要素であり,臨床心理士,そして2018年に誕生した国家資格である公認心理師,いずれの養成課程においても,心理学研究や統計学といった研究に関する科目の履修,大学院進学をした場合は(臨床心理士においては,指定大学院の修了が資格取得の必須条件である),修士論文の執筆や臨床心理学的研究に関するトレーニングを受けており,SCは心理学研究者としての科学性を専門性として備えている。SCもチームとしての学校の一員であると考えると,その専門性を生徒指導や教育相談等に関連する研究活動に生かすことは,生徒指導上の問題や心理的危機の予防および解決のための一助となると考えられる。

 

5 学校を越えた地域への発信・啓発

 

 学校教育は,教職員はもちろんのこと,保護者や校区内外に住む地域の方々の協力によって行われている。SCの地域に向けた援助活動としては,学区の連絡協議会やサポート会議への参加などが挙げられるが(小林,2018),今後はプロアクティブな生徒指導の実践として,地域に向けた心の健康に関する正しい知識の普及や教育に,SCも関与していくことが求められるだろう。その実践例として,筆者ら研究チームと教育委員会の協働により実施された「ゲーム依存未然防止のための児童生徒アンケート」およびその結果をもとにした実践を紹介したい。

 筆者は,当該自治体において5年以上SCとして活動していたが,2010年代後半より,インターネットやゲームへの依存が原因による学校不適応の問題がみられるようになり,どのような支援が効果的かについて,教職員と頭を悩ませていた。そのような中で,2019年,国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)にて,新たに「ゲーム障害」を疾病として正式に集約された。また2020年には,新型コロナウイルス感染症の流行に伴う学校の閉鎖措置や不要不急の外出の制限などが,オンラインゲームの児童生徒への普及を後押しするかのように,ゲームの利用に関する相談や問題が学校現場で増加した。一方で,子どもたちが学級内で話題にする内容の多くが,オンラインゲームやYouTuberの配信に関するものになっていることや,コンピュータゲームの競技である「eスポーツ」において未成年が活躍していることなどから,教職員からは「単純にゲームは悪いものであると規制することは,現代社会の流れにはそぐわないだけではなく,子どもたちの楽しみや可能性が失われてしまう可能性があり,難しいのではないか」という声が挙がっていた。筆者は「ゲームをプレイすることを,日常生活に支障をきたさずに,上手くコントロールしていく」という,ストレスマネジメントの観点やインターネットに関する特徴的な考え方(認知)の影響について仮説を示した。協議の結果,ゲームへの依存に陥る児童生徒の心理的特徴を明らかにし,予防的なかかわりについて検討するために,筆者と教育委員会の共同によるアンケートの実施を行った。その結果,問題のあるゲーム利用が疑われる者の割合は,小中学生全体で7.3%と,同じ指標を用いた大学生の調査結果を上回る数値であった。この結果は,日本アルコール・アディクション医学会学術総会において報告がなされたが(永浦ら,2022),医療関係者からは,臨床の場面では出会うことのない子どもたちに,多くの問題が生じていることを裏付ける結果として,驚きの声が挙がった。

 次に,これらの結果をもとに,筆者らは児童生徒および保護者に向けたリーフレットの作成と配布を行った。リーフレットには,本調査の結果の概要に加え,ゲーム依存の予防のためのヒントについてまとめた(永浦,2022)。当リーフレットは,学校を通して全児童生徒に配布されたほか,自治体の教育委員会のホームページから閲覧およびダウンロードが可能となっている※1。

さらに,ゲームへの依存に陥る児童生徒の心理的特徴として明らかになった,ゲームを断ることで友人関係が悪化するのではないかという不安や,ゲーム以外のストレス対処レパートリーの少なさ(永浦ら,印刷中)へのアプローチとして,いくつかの学校において,アサーショントレーニングやストレスマネジメントなどをベースとしたプログラムの作成および実施を,教育委員会および各校の生徒指導担当などとの協同により実施した。教育委員会の計らいにより,それらの取組は,自治体の広報誌に特集として掲載された※2。

 このように,ひとつの課題に対する取り組みを学校内のみならず学術団体,地域社会に広く公表することは,学校を越えた社会全体で,プロアクティブな生徒指導に対する意識向上に寄与するものと考えられる。そのためにSCは,その専門的知識を教育関係者だけではなく,さまざまな分野の専門職や一般の方向けに容易に説明ができるスキルを身に着けるとともに,子どもたちのより良い発達・成長のためのエビデンスとして,学術団体や社会に発信していく姿勢が求められるのではないか。

 

6 終わりに

 

 近年,SCの常勤化に向け,官公庁や職能団体はさまざまな調査や研究を進めており,そのためのエビデンスが蓄積されている最中である。本稿で紹介した実践例はいずれも単一の事例であり,SCの勤務形態,自治体および学校の規模や状況などが心理教育プログラムの実践に大きく影響する学校臨床の場面において,その結果の普遍化をすることは難しい。しかし,すべての取り組みにおいて共通していることは,SCが主体でも助言者でもなく,教職員と同じ目線でともに悩み考えるという,まさに「チーム」の一員として活動する姿勢と,勤務校における問題解決というミクロな視点をこえて,専門職として社会全体の心の健康の保持増進に寄与するために積極的に発信をしていくというマクロな視点を持つことである。今後,すべてのSCがこれらの専門性を自覚し,自己研鑽していけるよう,養成機関および職能団体において,教育研修のあり方について早急な検討が行われることが期待される。

 

謝辞

 本稿で紹介した研究および実践にご協力をいただきました各自治体教育委員会の皆様ならびに小中学校の先生方,児童生徒の皆様に,心より御礼申し上げます。なお,本稿で紹介した研究および実践の一部は,JSPS科研費19K03302の助成を受けたものである(基盤研究C 研究代表者:永浦拡)。

 

 

参考・引用文献

1) 文部科学省(2022). 生徒指導提要.   

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1404008_00001.htm(最終参照日:2023.6.16)

2) 日本臨床心理士会(2022). 文部科学省令和3年度いじめ対策・不登校支援等推進事業報告書:スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの常勤化に向けた実態調査. 一般社団法人日本臨床心理士会

3) 寺戸武志・秋光恵子・松本剛(2019). 学校におけるいじめ未然防止プログラムのための包括的測定尺度の改訂:信頼性・妥当性の検討と尺度の活用方法の考察. ストレスマネジメント研究, 15(1), 2-12.

4) 寺戸武志・永浦拡(2020). 対人ストレスに焦点を当てた「いじめ未然防止プログラム」の実践過程─小学4年生を対象に─. 発達心理臨床研究, 26, 13-21.

5) 永浦拡(2020). 「心の健康」に関する助言者としてのSC. 日本カウンセリング学会第52回大会(北海学園大学)発表論文集(自主企画シンポジウム:スクールカウンセリングにおける連携のこれから)

6) 永浦拡・冨永良喜(2017). 教員とスクールカウンセラーとの協働によるストレス研究実践の試み―体育学習ストレスコーピングに焦点を当てた市全体での取り組み―. 日本ストレスマネジメント学会第16回学術大会(北海道大学)発表論文集, 30.

7) 松見淳子(2016). エビデンスに基づく応用心理学的実践と科学者-実践家モデル―教育・研究・実践の連携―. 応用心理学研究, 41(3), 249-255.

8) 小林由美子(2018). 対象者別の支援. 窪田由紀・平石賢二(編). 心の専門家養成講座7:学校心理臨床実践, ナカニシヤ出版, 87-94.

9) 永浦拡・藤田益伸・堤俊彦・野田哲朗(2022). IGDS-J を用いた小中学生のゲーム依存傾向の実態調査−校種による違いに着目して−. 日本アルコール・薬物医学会雑誌, 57(4), 228.

10) 永浦拡(2022). ⻄脇市小中学校におけるゲームへの依存の未然防止のための取組〜アンケートの実施と活用〜(実践報告). 兵庫教育(2022年9月号), 859, 30-33.

11) 永浦拡・藤田益伸・堤俊彦・野田哲朗(印刷中). 小中学生のゲームに関連する認知がゲーム依存傾向に及ぼす影響. 日本認知・行動療法学会第49回大会(発表予定)

 


食農を軸にしたカリキュラム・マネジメント

~ 北海道釧路市立山花小中学校の取り組み ~

(寄稿)

小泉 匡弘

北海道教育大学 准教授(旭川校 生活・技術教育専攻)

  

北海道石狩市出身。北海道内の公立中学校教諭,北海道教育大学旭川校特任講師を経て2018年より現職。「生物育成の題材」と「教師の実践知」を中心に研究中。主著・論文等:『教師のわざを科学する』(一莖書房, 分担執筆),「生物育成の技術の評価に関する授業の実践知表出の試み」(日本産業技術教育学会誌),ほか。 

1 現在,学校教育で求められること

 

 学習指導要領(2019)では,「持続可能な社会の創り手となることができるように」,「持続可能な社会の創り手となることが期待される」と明記され,ESD(Education for Sustainable Development)「地球規模の課題を自分事として捉え,その解決に向けて自ら行動を起こす力を身につけるための教育」が中心として位置づけられている。

 また,令和の日本型教育として「個別最適な学び」および「協働的な学び」が鍵概念として示された。「個別最適な学び」は,子どもの興味関心に応じた課題や活動に取り組む機会を提供することで,学びが子どもに最適となる学習の個性化を図る。「協働的な学び」は,探究的な学習や体験を通じて多様な他者と協働することで,異なる考えを組み合わせたよりよい学びを生み出す。

 一方,VUCA(Volatility:変動性, Uncertainly:不確実性,Complexity:複雑性,Ambiguity:曖昧性)時代を生きる子どもにとって,自ら問題を見つけ課題を設定し様々な概念やスキルを組み合わせて解決する力が必要となる。そのために,学校での学びは,STEAM(Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics)などの各教科内容を関連させた教科横断・問題解決的学びが肝要となる。

 これらのように学校教育は,「ESD」,「個別最適な・協働的な学び」,「教科横断的・問題解決的学び」が求められる。時代を鑑みれば,これらが示す理念に沿って教育を行うことはやぶさかではないが,学校現場では様々な制約条件があるため実践するには知恵を絞らなければならない。そのためには,まず実践の土台となるカリキュラム・マネジメントが重要となる。

 本稿では,北海道釧路市立山花小中学校(以下,山花小中)のカリキュラムについて紹介する。山花小中は食農を教育活動の軸にする。山花小中のカリキュラムは,「ESD」,「個別最適な・協働的な学び」,「教科横断的・問題解決的学び」を食農でつないだ三色団子のようなイメージである(図1)。食農を軸にしたカリキュラムで,各団子の味が際立ち調和する教育活動を展開しようと取り組んでいる。

図1 山花小中カリキュラムイメージ

2 特色ある教育活動

 

(1)総合的な学習の時間

 山花小中では,総合的な学習の時間のテーマ「STOP!地球温暖化!!」を掲げて,身近な生活の中にある問題のために自分たちができることを提案する。そして,個人テーマと学年テーマを設定し,各テーマについて実践を通して個人または協働で探究する(写真1,2)。

 一方,学年縦割り班を構成し,学校農園を使った栽培活動を行う。また,子どもたちは栽培した作物を使った料理や加工品をつくり,保護者や地域の人に提供する(写真3,4)。

 山花小中では「実践を積み重ねる」ことを大切にしており,子どもたちは実践を通して,探究,問題解決,協働について身をもって学ぶことができる。

写真1(左) 個人探究の姿  ・  写真2(右) 協働探究の姿

写真3(左) 縦割り班での調理 ・ 写真4(右) 保護者・地域の人への加工品の提供

(2)ESDカレンダー 

 小学校5年生の各教科内容をESDの観点からまとめたESDカレンダーを図2に示す。このようなESDカレンダーを小学校1年生から中学校3年生まで作成し,1年間の各教科のSDGsに関わる内容を一覧として整理する。例えば,国語の「みんなが過ごしやすい町へ」はSDGsの17番目の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」,社会の「日本の工業生産の今と未来」は9番目の目標「産業と技術革新の基盤をつくろう」と関わる。これによって,ESDと各教科の内容が往還的に関連付けられ,また,各教科の学習内容が進むにつれてSDGsの各目標を達成するためのアプローチの視点が多様化・具体化される。

図2 小学校5年生のESDカレンダー

(3)ESDの樹

 ESDの樹が小学校1年生から中学校3年生までの学年ごとに設置されている(写真5)。子どもたちは,各教科の学習,総合的な学習の時間でESDに関して分かったことや疑問点などを付箋に書き込み自由に貼っていく(写真6)。ESDの樹を見ることで,自分の問いを明確化したり他者と探究過程を共有したりできる。また教師は,ESDの樹によって児童・生徒の個々の興味・関心を知ることができる。子どもたちの記述例を表1に示す。

写真5(左) ESDの樹 ・ 写真6(右) ESDの樹に貼られている付箋例

表1 ESDの樹に貼られている生徒の記述例

 

〇理科で「泥水はどうやったら飲めるようになるのか?」という課題にチャレンジした。ろ過や蒸留,電気分解などを試して蒸留が一番うまくいった。世界の水問題は蒸留の仕方が関わっていて自然のろ過の仕組みにとても納得した。水問題について自分ができることを考えていきたい。

 

〇去年収穫した野菜の皮が大量にでた。これを効果的に使えるのではないかと考えコンポストをつくることにした。コンポストを使って作った土と普通の土との違いを調べたい。

 

〇Every day, we use a lot of plastic, but leads to produce tons of plastic trashes every year. These problems may put many sea creatures in danger. So, I suggest using the app “My Mizu”. It introduces a lot of places to refill water or drink, instead of buying bottles. Which can increase the use of plastic.

   

 理科での学習をきっかけに水問題に着眼し,水問題と蒸留の関わり,水の大循環について学び,自分たちが水問題に対してできることを考察する。調理の際に大量に出る野菜の廃棄部分からもったいなさを感じ,コンポストづくりと土壌調査を通して,廃棄物の有効活用について探究する。毎日大量にでるプラスチックゴミの自然界への影響を憂い,自分たちの行動転換が必要であることをアプリの紹介を交えながら得意の英語を用いて主張する。

 子どもたちにとってESDは特別なことではなく,生活や教科学習などで日常的に意識されている。そして,探究が個々の興味・関心からスタートでき,実践を通して問題解決に取り組むことができる。これによって,子どもたちは持続可能な社会の構築に対してエンパワーメントされる。

 

3 行動主体を形成するカリキュラム

 

 大森(2007)は,子どもの発達過程を「行動主体形成」としてとらえる。行動主体形成とは,子どもが主体的に選択・判断し行動することで自分の力に自信をもち,技と認識を身につけることである。行動主体形成の教育は,直接経験を通したその子の学びの文脈から展開されることが肝となる。

山花小中は,栽培活動を主とした食農を通して子どもたちの直接経験の機会を豊富に用意する。そのため,子どもたちは,日常生活や各教科で抱いた問題意識を実践的に探究できる。実践による探究によって,行動知に支えられた内容知を獲得し行動主体を形成する。獲得された知は,学校知として測られないこともあるだろうが,持続可能な社会を構築する知として,VUCAの時代を生きる知として重要な意味を持つだろう。

 カリキュラム開発について,探究カリキュラム開発を行ったSchwab(1969)は,カリキュラムの革新には,理論によるものから実践に準じたものへと転換することが重要であるとする。山花小中のカリキュラムは2年目である。山花小中が今後も実践を通してカリキュラムを革新させ,三色団子が食農を軸にして有機的につなげられたカリキュラム・マネジメントのパイロット校となることを期したい。

 

 

 

参考文献

 

1) 文部科学省(2019)中学校学習指導要領,東山書房

2) 大森享(2007)行動主体形成の教育と小学校食農教育実  践,鈴木監修「食農で教育再生-保育園・学校から社会教育」,農文協,146-167.

3) Schwab, J. J. (1969) The practical: a language for curriculum, The School review: a journal of secondary education, 78(1), 1-23.

 


GIGAスクールの先を見据えて

 情報活用能力を育てるために必要な課題とは 

(寄稿)

磯部 征尊

愛知教育大学 創造科学系 技術教育講座 准教授

  

新潟県新潟市出身。兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科博士課程修了。博士(学校教育学)。新潟県内の公立小学校教諭,新潟大学教育学部附属新潟小学校教諭を経て2014年より現職。2018年より学校法人東海学園非常勤講師,2019年より名古屋商科大学非常勤講師。主著:『必須化!小学校のプログラミング学習』(学芸みらい社,単著)ほか。 

(寄稿)

1 情報活用能力を身に付けた子供とは?

 

 文部科学省の「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」では,「『学ぶ』ことの意義と,これからの時代に求められる力の再確認」において,以下の答申を示している1)

 (中略)子供たちが複雑な情報を読み解いて,解決すべき課題や解決の方向性を自ら見いだし,多様な他者と協働しながら自信を持って未来を創り出していくために必要な力を伸ばしていくことが求められる。また,その過程において,私たちの生活にますます身近なものとなっている情報技術を,受け身で捉えるのではなく,手段として効果的に活用していくことも求められる。

 キーワードは,情報技術を受け身で捉えるのではなく,手段として効果的に活用していく力が求められている,ということである。従って,私は,情報活用能力とは,「自ら進んで学び,相手に分かりやすく伝える力」と平易に表現している(図1)。 

図1 情報活用能力を育てるための3段階

 図1を基に,情報活用能力を身に付けた子供に育てるための3段階を紹介したい。

 

 初めに,各学級が「支持的な学級風土(以下,心地良い学級)」づくりを進めることは,当然大切なことである。その上で,一つ目の段階は,「気付く(知る)」段階である。具体的には,「心地良い学級」において,各授業者は,子供たちに複数の教科でタブレット端末を使う機会を設定する。子供たちには,「学習を進める上で,タブレットを活用した方が便利だ」,という気付きを持たせるのである。

 

 二つ目の段階は,「分かる(出来る)」 段階 である。例えば,国語科の授業で,知らない言葉を調べるために,タブレットを活用した授業を経験した子供が,社会科や総合的な学習の時間等,他の教科でもタブレットを活用する機会を設定する。子供は,「国語科で使ったタブレットの機能が,ここでも使える」,ということがわかる。二つ目の段階を経た子供たちは,「デジタルを進んで活用しようとする力」が向上した姿として捉えることが出来る。

 

 三つ目の段階は,「デジタルを学びのツールの一つとして身に付ける」段階である。ポイントは,子供たちに,「分かる(出来る)」実感を毎日継続させていくことである。子供たちは,少しずつ,自らの意思で「僕は,発表会に向けて,タブレットを使って説明します」,というように,相手に分かりやすく伝えるには,どのような手段を用いれば良いのかを考える。また,タブレットを活用した方が効率的かつ,効果的に情報を整理することが出来るのではないか等と,子供たちは,タブレットをツールの一つとして取捨選択する姿へと変容していく。私は,このような段階へ子供たちを育てていくことが,情報活用能力の目指す具体の姿であると考える。一方,図1右側に示した通り,情報活用能力を育てるために必要な課題は,主に4点ある。本稿では,紙幅の制約上,「ICTスキル指導」と「語彙力の育成」,「思考力の育成」の3点を述べる。

 

2 ICTスキル指導に向けて

 

 子供たちに情報活用能力を身に付けさせるためには,教師一人一人の情報活用能力の向上は必須である。教師に必要な活用スキルを表1に整理する。

 

表1 教師に必要な活用スキルの6項目

① 大型提示装置を活用しよう

・カメラ機能を活用して資料やノートを大型提示装置に映す

・Apple TV等を活用してタブレット画面を大型提示装置に映す

 

② 学習用アプリを活用しよう

・デジタル教科書やNHK for School等のデジタル教材を活用する

・ドリルソフト等の個別学習用アプリを活用する

 

③ 授業支援ソフトを活用しよう

・授業支援ソフトを活用してタブレットに入力した児童生徒の意見を大型提示装置に映す

・授業支援ソフトを活用して資料の配布や回収をする

 

④ 協働学習を授業の中に取り入れよう

・小型のホワイトボードを活用した授業(アナログ)から,タブレットを活用した授業(デジタル)へ切り替える

 

⑤ デジタルを活用する場面と黒板を活用する場面を意識しよう(例:黒板の左側はスクリーン投影,右側は書くスペース)

 

⑥ ビデオ会議アプリを活用しよう

・家庭学習や現職研修会等で活用(練習)する 

 表1に示した6項目の内,一人一人が出来そうなスキルを少しずつ増やしていくことで,情報活用能力を向上させる姿を期待したい。

 

3 語彙力の育成に向けて

 

 情報活用能力を向上させていくと,大人も子供も,「ここを見てください」,「その理由は,そこに書いてある通りです」等,「こそあど」言葉が増えていく可能性がある。特に,話す・書く場面では,各教科で身に付けた言葉を用いて表現させる機会を大切にする必要がある。このような語彙力の育成は,確かな情報活用能力を育てることへ直結する。

 

4 思考力の育成に向けて 

写真1 思考の言葉を掲示したポスター(小学校1年生)

 写真1は,愛知県内の小学校で進めている取り組みの一つである。情報活用能力の育成には,先述の語彙力と共に,言葉と言葉をつなぐ言葉(以下,思考の言葉)が,相手に分かりやすく伝える上で必要である。各学級担任は,授業中,育てたい思考の言葉を使って発言した子供の名前を短冊に記載し,適宜蓄積していく。子供たちは,話すことへの自信をもったり,進んで使おうとする意欲を高めたりする姿へと変容していく。

 

5 終わりに

 

 GIGAスクール構想がスタートし,タブレットを活用した学級・授業づくりを通じて,情報活用能力の育成が急速に高まっている。各学校においては,GIGAスクールの先を見据えた取り組みとして,本稿で紹介した必要な課題にも着手しつつ,カリキュラム・マネジメントを進めることを期待する。詳細は,拙著2)を参照していただきたい。

 

 

 

参考文献

 

1)文部科学省,小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ),小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議,http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/ chousa/shotou/122/attach/1372525.html,平成28年6月16日

 

2)磯部征尊,必須化!小学校のプログラミング学習,学芸みらい社(2020)

 


『教育への扉』とは

 竹谷出版学術ジャーナル『教育への扉』は当社から依頼した著名な学識者の方々から頂いた「寄稿」や、全国の研究者・実践者の方々から「投稿」頂いた論文等をWeb上で定期刊行物として読者の皆様に提供するものです。

 教育実践や研究に役立つ情報共有の場になれば幸いです。


ジャーナル (ダウンロード)

 ― 第4巻(2024年度)―――――――

第1号:6月号> 

1. 【寄稿】子ども理解を中心に据えた授業構築を目指して~ チームの一員として心理教育を展開するために ~(高橋 純一)

  

第2号:9月号> ※New!

1. 【コラム】思考力を育てるブリッジコンテスト

~ 思考力・判断力・表現力を育む評価について~ (丸山敏夫)

 

2. 【論文】フローチャートを用いた調理計画立案の考察 ―小学校家庭科における調理計画表に着目して―(青木 雄志)

 

 ― 第3巻(2023年度)―――――――

第1号:6月号>

1. 【論文】地域に視点を置いた教員養成に関する実践的研究 ー公民館と連携した社会科教育ゼミナールの取組を通して―(高橋 純一)

 

2. 【寄稿】スクールカウンセラーと心理教育 ~チームの一員として心理教育を展開するために~(永浦 拡)

 

第2号:9月号> 

1.【論文】社会科指導法における授業力向上に関する研究 ― 対話型授業構想を取り入れて―(杉浦 勉)

 

2.【実践報告】教師の成長を促す学校現場における省察支援の実践 ~「授業改善推進チーム活用事業」の取組に「ALACTモデル」を活用して~(小林 豊)

 

第3号:12月号> 

1.【寄稿】インストラクショナルデザインを活用した授業設計(藤本 光司)

 

第4号:3月号> 

1. 【実践報告】円滑な接続のための幼小連携のあり方 ~ 勤務園のカリキュラムづくりを通して~ (青柳 紘子) 

 

― 第2巻(2022年度)―――――――

第1号:6月号> 

1. 【寄稿】GIGAスクールの先を見据えて ~ 情報活用能力を育てるために必要な課題とは ~(磯部 征尊)

 

第2号:9月号> 

2.【実践報告】技術リテラシーを育むガバナンスレビュー学習の実践~ エネルギー変換の授業を通して ~(勝瀬 駿太)

 

第3号:12月号>

3.【寄稿】食農を軸にしたカリキュラム・マネジメント ~北海道釧路市立山花小中学校の取り組み~(小泉 匡弘)

 

第4号:3月号>

4.【実践報告】深い学びにつながる学級の仲間理解を目指した実践~特別活動「くらしの時間」に焦点を当てて~(高橋 純一)

 

 

 ― 第1巻(2021年度)―――――――

<第1号:6月号>

1. 【寄稿】技術科教育の力ある教材とは ~「新編 技術科教材論」の発刊趣旨とその意味 ~(安東茂樹)

 

第2号:9月号> 

1. 【コラム】ICT を活用した総合的な学習の時間 ― 探究的な学習の充実を目指して ―(小原広士)

 

2. 【論文】プログラミング的思考を用いた教科指導の考察 ― ICT 活用を取り入れた国語(文学)授業デザインを中心に―(大村勅夫)

 

 <第3号:12月号> 

1. 【寄稿】ミドルリーダーとしての資質とは ~教職大学院の組織マネジメントコースの在り方~ (水上 丈実)

 

2. 【論文】失敗体験における原因帰属の傾向と技能の関係 ― 技術科の製作学習に着目して―(中川晃)

 

 第4号:3月号> 

1. 【コラム】ICT を活用した生物育成の技術 ~ 技術科における自発的な栽培技術の習得を目指して ~(小澤 雄生)

 

2. 【実践報告】生物育成の技術における授業構築の留意点とは ~ 技術科教師としての 16 年間 5 校での実践研究より ~(青山 陽介)

 

 


 

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